第8章 借り物競争を有効活用しよう!
長い目で見て人材を育てる
現(株)メディアミックス&ソフトノミックスは、長い目でみた人材育成にたいへん力を入れている会社である。
同社は、出版社などのテープ起こし原稿の作成を主な業務としているが、テープ起こしを「トランスクライビング」と称し、その専門家の育成に努めている。
約100名ほどの専任の在宅ワーカーに対して、会社負担で教育を受けさせ、テープ起こしに必要な機材一式を貸与している。録音機材を持って取材に出かける場合、家を出てから帰宅するまでの時間が全て時給換算され、交通費も会社で負担してくれる。
福利厚生面にも力を入れている。独身者のみだが、国民健康保険の補助をしているし、中小企業福利厚生センターに会社として加入することで、映画や飲食店、レジャー施設の割引券などを登録スタッフに配布している。
在宅ワーカーに対して、これほどまでの環境を準備している会社は、他に例みないだろう。同社の佐藤社長は次のように話す。
「現在の僕の一番の関心事は、人材の育成です。社員並みの教育・待遇を提供することによって、自社で長く良い仕事をしてもらいたいと考えています。当社のスタッフもそれをよくわかってくれていて、時には『おいしくない』仕事があってもやってくれます。皆、お金、お金と考えていないので、本当に感謝しています。やはり、長い目でみて『ここで働いてよかったな』と思ってもらえなければ、経営は成り立たないですよ」
同社のやり方は、裏を返すと、従来の正社員のよいところをうまく残しながら、正社員という雇用形態では不可能だったことを実現したやり方といえるだろう。働く側の立場から見れば、在宅で好きな時間に仕事ができ、しかも恵まれた待遇の中でスキルアップもできるとなれば、これほどありがたいことはない。
「これからは正社員を雇う時代ではない」と言われるが、「正社員という雇用形態はダメ」といちがいに決め付けるべきでもない。従来のやり方の良さを認めながら、時代の風も読む。そして、お互いにとって一番心地よく働けるやり方を見つけていくセンスが、これからの経営者には求められるだろう。(本書 216頁から217頁 抜粋)
『小さな会社は人材の「借り物競争」で勝て!』(2003年5月10日初版発行)
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